薬剤師は資格職ゆえに、雇用も安定していて年収が高めのイメージもありますが、このページでは厚労省などの公的なデータをもとに実際の薬剤師の平均年収(都道府県別ランキングや採用先別の比較など)の数字を紹介し、転職ステーションに寄せられた実際の薬剤師の方の給与明細なども紹介しながら「薬剤師の年収」の全貌を紐解いていきます。また年収アップの方法や年収1,000万円の事例、年収別の薬剤師の転職例も併せてご紹介しますのでご参考下さい。
目次
厚労省が公表している薬剤師年収データ・全国平均
まずは平成29年度の厚生労働省の賃金構造基本統計調査の薬剤師の箇所のデータを見てみます。これによれば薬剤師の平均年収の全国データは以下になっています。参考に年齢や勤続年数データも併せて掲載します。
年齢 | 39(歳) |
勤続年数 | 7.2(年) |
所定内実労働時間数 | 164(時間) |
きまって支給する現金給与額 | 388,300(円) |
年間賞与その他特別給与額 | 778,600(円) |
労働者数 | 64890(人) |
(出典:「平成29年賃金構造基本統計調査・ 賃金構造基本統計調査に関する統計表」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2017/index.html【厚生労働省】を加工して作成)
「きまって支給する現金給与額」というのがいわゆる額面給料(社会保険料などを引く前の月給)になり、年間賞与その他特別給与額というのがいわゆるボーナスになります。人数は約6.5万人のデータになります。上記のデータで年収を計算すると388,300円×12+778,600円=5,438,200円というのが全国平均の薬剤師の年収になります。
厚労省が公表している薬剤師年収データ・都道府県別での比較
上記の平均の数字はあくまで全国平均ですが、薬剤師の場合は、都道府県別などの需給状況や業種による違い、役職による違いなどが年収に大きく影響するため、年収の個人差は割と大きく全員が上記のような数字に収まるわけではありません。
例えば都道府県別での年収データを見ると以下になります。公式データの「きまって支給する現金給与額」=「月額給与」、公式データの「年間賞与その他特別給与額」=「ボーナス」と表記しています。年収は「月額給与」×12(ヶ月)+「ボーナス」で算出しています。
月額給与(円) | ボーナス(円) | 年収(円) | 年齢(歳) | 勤続年数(年) | 労働者数(人) | |
奈良 | 594,400 | 639,800 | 7,772,600 | 38.3 | 7.9 | 840 |
静岡 | 482,100 | 1,060,300 | 6,845,500 | 47.8 | 7.4 | 2,210 |
青森 | 466,600 | 1,106,300 | 6,705,500 | 41.1 | 3.0 | 370 |
栃木 | 443,400 | 1,235,800 | 6,556,600 | 43.6 | 11.2 | 1,090 |
島根 | 437,600 | 1,232,300 | 6,483,500 | 41.0 | 5.5 | 250 |
鹿児島 | 464,700 | 697,900 | 6,274,300 | 41.3 | 6.9 | 560 |
愛媛 | 418,100 | 1,218,000 | 6,235,200 | 41.8 | 12.8 | 510 |
広島 | 391,100 | 1,240,900 | 5,934,100 | 45.5 | 10.5 | 710 |
兵庫 | 401,100 | 932,900 | 5,746,100 | 37.3 | 8.1 | 1,800 |
東京 | 406,700 | 825,500 | 5,705,900 | 40.5 | 9.4 | 9,270 |
大分 | 387,300 | 1,055,200 | 5,702,800 | 44.5 | 10.5 | 380 |
山口 | 367,500 | 1,186,200 | 5,596,200 | 41.8 | 7.8 | 500 |
群馬 | 395,700 | 742,800 | 5,491,200 | 34.9 | 5.3 | 820 |
秋田 | 362,900 | 1,130,000 | 5,484,800 | 33.9 | 5.0 | 780 |
長野 | 377,600 | 914,600 | 5,445,800 | 44.7 | 7.9 | 720 |
高知 | 353,000 | 1,203,200 | 5,439,200 | 43.5 | 4.5 | 210 |
長崎 | 386,800 | 724,700 | 5,366,300 | 38.8 | 5.4 | 590 |
福井 | 350,200 | 1,144,800 | 5,347,200 | 39.4 | 11.3 | 290 |
埼玉 | 399,500 | 544,000 | 5,338,000 | 34.8 | 4.1 | 4,300 |
神奈川 | 386,600 | 693,400 | 5,332,600 | 38.3 | 6.6 | 4,760 |
愛知 | 381,800 | 746,500 | 5,328,100 | 38.6 | 6.7 | 3,190 |
福岡 | 379,800 | 764,200 | 5,321,800 | 39.5 | 9.8 | 3,070 |
岐阜 | 388,000 | 656,400 | 5,312,400 | 35.9 | 4.2 | 890 |
和歌山 | 388,700 | 645,500 | 5,309,900 | 36.5 | 5.2 | 340 |
福島 | 368,400 | 876,000 | 5,296,800 | 41.3 | 13.9 | 630 |
茨城 | 367,800 | 825,000 | 5,238,600 | 42.4 | 6.9 | 620 |
岩手 | 392,300 | 515,800 | 5,223,400 | 36.4 | 4.8 | 560 |
千葉 | 384,000 | 582,200 | 5,190,200 | 35.9 | 6.5 | 6,280 |
佐賀 | 378,500 | 643,200 | 5,185,200 | 39.0 | 9.2 | 350 |
北海道 | 363,700 | 813,500 | 5,177,900 | 38.2 | 6.1 | 3,510 |
熊本 | 364,000 | 766,500 | 5,134,500 | 39.0 | 5.2 | 960 |
香川 | 365,300 | 723,500 | 5,107,100 | 39.1 | 9.7 | 350 |
大阪 | 355,200 | 838,300 | 5,100,700 | 38.8 | 6.9 | 3,650 |
山梨 | 393,200 | 377,100 | 5,095,500 | 45.3 | 11.0 | 270 |
沖縄 | 384,000 | 466,500 | 5,074,500 | 39.2 | 5.1 | 2,140 |
富山 | 303,700 | 1,384,400 | 5,028,800 | 41.3 | 15.9 | 440 |
鳥取 | 330,200 | 1,038,700 | 5,001,100 | 40.2 | 4.3 | 540 |
山形 | 316,100 | 1,183,700 | 4,976,900 | 38.1 | 10.8 | 370 |
岡山 | 332,200 | 931,900 | 4,918,300 | 37.5 | 7.6 | 540 |
宮崎 | 371,900 | 442,100 | 4,904,900 | 42.8 | 4.6 | 510 |
滋賀 | 341,900 | 770,400 | 4,873,200 | 28.1 | 3.5 | 330 |
京都 | 354,800 | 586,500 | 4,844,100 | 39.1 | 3.5 | 1,970 |
新潟 | 327,500 | 876,500 | 4,806,500 | 39.7 | 6.6 | 580 |
徳島 | 341,000 | 695,700 | 4,787,700 | 42.0 | 8.6 | 420 |
石川 | 309,200 | 1,066,400 | 4,776,800 | 39.7 | 4.5 | 300 |
宮城 | 314,400 | 938,700 | 4,711,500 | 37.1 | 5.7 | 770 |
三重 | 315,200 | 592,800 | 4,375,200 | 36.3 | 5.6 | 370 |
(出典:「平成29年賃金構造基本統計調査・ 賃金構造基本統計調査に関する統計表」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2017/index.html【厚生労働省】を加工して作成)
上記のデータは調査対象が約6.4万人の正規雇用の薬剤師になるので全ての薬剤師を反映したものではないですし、アルバイトなどのデータは入っていませんが、一つの参考データにはなります。都道府県別でみると、例えば平成29年は奈良県が1位で約777万円、静岡県が2位で約684万円になっています。逆に年収が低い県で見ると三重県で約437万円、宮城県で471万円などになります。その年のそのエリア薬剤師の不足状況なども反映していると考えられますが、都道府県で最大300万以上も差があります。
また、9,270人と一番薬剤師人口の多い東京の平均年収は約570万円、4,760人と二番目に薬剤師が多い神奈川は約533万円になっていて、奈良や静岡に比べると100万円以上も少ない数字です。これらの背景には、薬剤師が一般に都市部においては充足しており、地方においてはやや不足気味であるという点があり、人材の需給の関係が反映してると考えられます。特に薬科大学や薬学部のない県や離島においては薬剤師不足が深刻なため、高給にして募集をかけているところが多いです。
地方と都心で年収にすると100~200万円ほどの違いがあるのは事実ですが、ただその代わりに生活する上での問題点もあります。 例えば、娯楽施設が無かったり、スーパーやコンビニなどの生活の基盤となる施設が少ないところもあります。実際に地方にIターンをする場合には、生活環境について十分なリサーチが必要です。やはり年収はそう上がりにくくても大手の方が雇用者としては安心できるというのは事実としてあるようです。
参考大阪府6,349,181円・5,422,560円、東京都5,933,000円・5,410,229円など
薬剤師の給料や福利厚生は、調剤薬局で働くのかドラッグストアで働くのか病院で働くのかなどによっても様々です。ここでは実際に勤務経験がある薬剤師のリアルな給与明細を紹介します。
厚労省が公表している薬剤師年収データ・採用先の規模での比較
上記のようにエリアによって年収の差が出る傾向にある薬剤師ですが、採用先の規模などによっても年収は異なります。
例えば、薬局や病院においては、全国展開のチェーン薬局や500床以上の大規模病院は薬剤師の在籍数が多く、薬剤師を募集するとすぐに応募があるため、年収は低めに設定されていることが多い傾向にありますし、小規模な採用先は急募などの事情も多く、年収が高めに設定されることが多いです。以下は厚労省のデータに基づいて作成した採用先の規模による年収の比較表です。企業規模(10~99人)(100~999人)(1,000人以上)で比較しています。
月額給与(円) | ボーナス(円) | 年収(円) | 年齢(歳) | 労働者数 | |
全体 | 388,300 | 778,600 | 5,438,200 | 39.0 | 64,890 |
10~99人 | 427,000 | 628,600 | 5,752,600 | 44.8 | 17,290 |
100~999人 | 380,300 | 812,300 | 5,375,900 | 39.8 | 20,610 |
1,000人以上 | 369,600 | 849,100 | 5,284,300 | 34.6 | 26,980 |
(出典:「平成29年賃金構造基本統計調査・ 賃金構造基本統計調査に関する統計表」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2017/index.html【厚生労働省】を加工して作成)
上記のデータを見ると、1,000人以上の大手の雇用先と10~99人の中規模の雇用先では約50万円の年収の差があります。また雇用者の人数が多くなればなるほど年収が下がる傾向にあります。上述の通り、中小規模の薬局や病院では、募集をかけても薬剤師が集まりにくいため、やや高めの設定となることが多いです。
またこのデータにはありませんが1-9人で経営する個人経営の薬局等でも転職サイトを検索すると高年収求人が出ていることも多いです。ただ小規模の方が年収が高くなるとは言え、下記のように規模が小さいゆえの悩みを抱える人もいるので転職時には自分の優先順位を明確にして転職に挑みましょう。
参考個人経営の薬局の将来性が不安という相談
3店舗展開している個人経営の薬局で薬剤師をしております。現在32歳で妻と5歳になる子供が一人います。卒業後知り合いのつてで今の薬局に就職したのですが、店舗の数も増えず、最近漠然とこの薬局で働いていても...
業種による薬剤師の年収の違い
都道府県や雇用先の規模以外でも、業種によっても年収は変わってきます。薬剤師の資格で働ける場所はいくつかありますが、薬局やドラッグストアが約57%、病院・診療所が19%というデータがあり、これらに大半の薬剤師資格者が勤務しているというのは事実です。
参考薬剤師の勤務先の統計・「薬局やドラッグストア」が1位
薬剤師の転職は「売り手市場」が続いています。それに伴い、薬局・ドラッグストア・病院・医薬品関係企業など様々な業界で多くの薬剤師の募集が出ています。このような雇用先に就職するにはど...
これらの業種の薬剤師の年収を転職サイトで実際に検索してみると、例えば、調剤薬局で450~650万円、病院で400~600万円くらいがおおよその相場であり、傾向としては調剤薬局と病院であれば調剤薬局の年収が高くなる傾向があります。この理由は診療報酬と調剤報酬の違いにあります。診療報酬は病院で診察や治療を受けた場合の価格表、調剤報酬は薬局で処方箋調剤を受けた場合の価格表と表現できますが、調剤料や調剤基本料、薬歴管理料などにおいて調剤報酬の方が優遇されています。そのため病院薬剤師よりも薬局薬剤師の方が年収が高くなる傾向にあります。ドラッグストアにおいては年収400~700万円が相場とやや幅があります。これは上記の調剤薬局と病院・診療所と異なり、企業の方針などにより幅が出る傾向があるので採用される企業によるところが大きいです。
上記以外にも製薬会社やCROなどの治験関係などの業種に就職する人もいます。もし高給を狙っていて仕事内容を選ばないのであれば、製薬企業の営業職(MR)が高くなる傾向があります。成果主義となるため一概には言えませんが、大手製薬企業や外資系企業であれば年収700~1000万円となる場合もあります。ただし、MRは薬剤師の国家資格を持っていなくてもできるのでライバルも増えますし、高年収をもらえるかはかどうかは人それぞれにはなりますが、営業力に自信があったり人間関係の構築に自信があれば高年収を狙う一つの選択肢です。
参考26歳・ボーナス200万のMRの給与明細
国内には大手から中堅まで多くの製薬会社がありますが、MRの多くは製薬会社に所属して医薬品情報を医師などに提供していきます。年収が高いイメージが強いMRの仕事ですが実際の給与明細をチェックしてみましょう。
参考MRは成績が良ければ年収1,000万円も夢ではない?
社会人歴5年目で、現在28歳です。今の仕事に閉塞感を感じていて、もっとやりがいがある仕事に移りたいと考えていた矢先、この前大学時代の友人と久しぶりに会ったんですが、MR職についている友人たちの生活レベ...
- 業種で言うと「製薬企業>調剤>病院」の年収順になる傾向。
役職による薬剤師の年収の違い
これは薬剤師だけではないですが、当然「役職」によっても年収が変わります。例えばドラッグストアでは、一般薬剤師から店長、次にエリアマネージャーに昇進していくと年収も上がります。大規模なチェーン薬局においても同様です。調剤薬局においては、一般薬剤師と管理薬剤師が法的に区別されており、管理薬剤師の給与が優遇されます。求人においては一般薬剤師と管理薬剤師の募集を分けていることがほとんどです(ただし、管理薬剤師は他店舗での勤務が法的に禁止される等のデメリットがあります)。病院においても、薬剤部の主任から 係長、部長に昇進するにしたがって、年収が上がっていきます。
「薬剤師のリアルな給与明細調査」の中で27歳で年収630万をもらっている男性もチェーン調剤薬局の薬剤師兼薬局長で管理薬剤師ではないかと思われます。やはり高年収になるには地域性や業種も大事ですが役職が上がれば年収は上がっていくというのは他の仕事と同じと言えるでしょう。
参考薬剤師で給料が高い人の明細をチェック
薬剤師の給料や福利厚生は、調剤薬局で働くのかドラッグストアで働くのか病院で働くのかなどによっても様々です。ここでは実際に勤務経験がある薬剤師のリアルな給与明細を紹介します。
薬剤師で高年収になる方法は?年収1,000万円は可能か?
ここからは「薬剤師が高年収になるための方法」について考えていきます。当然資格をとったりしてスキルアップすることや経験を積むことで総じてある程度までは給料は上がっていきますが、例えば転職などで一気に年収アップを狙いたい人などは以下のような方法も頭に入れておいてください。薬剤師としての資格や職能を活かせる仕事で高給を実現させるためには、限られた手段しかありません。以下いくつか紹介します。
調剤薬局や病院では、初任給は比較的良いのですが、その後の昇給が少ない傾向にあります。これは調剤行為や薬学的管理指導に対する診療報酬や調剤報酬が一律の金額で決められているため、新人薬剤師が行っても熟練薬剤師が行っても得られる報酬額は同じであることが影響しています。優秀な人材でどれだけ医師や患者さんからの評価が高かったとしても、調剤や服薬指導に関する報酬はどの薬剤師がやっても必ず同じなのです。優秀な薬剤師がいるために、医療機関を受診する患者さんが増えたり、調剤薬局に持ち込まれる処方箋が急激に増えたりすることはそう多くはありません。
薬剤師がほとんどいない地方に赴任する
1つ目に、薬剤師がほとんどいないような地方に赴任するという方法があります。例えば、人口数百から数千人程度の町や村であったり、離島等においては年収800万円を超えるような求人が転職サイトに掲載されています。ただし、このような地方に赴任するということは生活の利便性も低下するということを念頭に置く必要があります。冒頭の都道府県の薬剤師年収ランキングでも上位には人口がそう多くない地方都市が入っていたことからもこの方法は年収アップに有効な1つの方法です。
大手薬局やドラッグストアなどで出世する
2つ目に、ドラッグストアや調剤薬局の全国チェーン企業に転職して、エリアマネージャーや本部長、取締役などの幹部役員になるという方法があります。まずは管理薬剤師や店長になり、そこから上を目指す必要があります。この場合、相当有能な人材でなければ、昇進は難しいかもしれませんが、これは転職活動や独立なしに安定的に年収をアップさせる方法の1つと言えます。
調剤薬局を開業する
3つ目に、調剤薬局に勤務して経営ノウハウを学んだ後、自分で調剤薬局を開局するという方法があります。調剤薬局は、定期受診する患者数が一定数確保できれば、比較的軌道に乗りやすいビジネスです。ただし、隣に開業するクリニックの診療科次第で患者数や収益なども大きく変わりますし、クリニックと運命を共にするというリスクを背負うことにもなります。
MRへ転職する
4つ目は、製薬企業のMRへの転職するという方法です。特に大手製薬企業においては、40代の営業職の平均年収は1000万円を超えると言われています。しかし、MR職は薬剤師の国家資格を持っていなくてもなれますし、職務内容も医師への情報提供や有害事象の収集等においては薬学知識が役に立つこともあるかもしれませんが、結局のところ営業職であるため、売上額により給与や賞与が左右されます。売上額が目標に達しない状況が続くと、働き盛りの40代や50代でリストラされるリスクもあります。
実際のところ、MRには向き、不向きがあります。プレゼンテーションが上手で医師等と人間関係を構築するのが得意な人には高年収も見込めるためお勧めしますが、万人ができる仕事ではありません。
高年収の定義として世間一般で「年収1,000万」という数字がありますが、薬剤師の職種でそれは可能でしょうか?上記いくつか年収アップの方法を紹介しましたが、実際のところは調剤薬局や病院などの医療機関で一般薬剤師として働いている限り、年収1000万円に到達する可能性はかなり低いでしょう。
例外としては、病院薬剤師であれば薬剤部の管理職となり事務部長や診療技術部長、もしくは副院長を兼務すれば1,000万円に近い年収となることがあります。調剤薬局やドラッグストアの場合、大手チェーンであれば現場の薬剤師からエリアマネージャー、本部長などを経由して、企業幹部になることができれば可能性はあるかもしれません。薬局を個人で経営した場合、処方箋の枚数によっては1,000万円程度の年収を手にすることもできるかもしれません。しかしどれも難易度は高いです。
極論を言えば、薬剤師の頂点ともいえる大学の薬学部の教授の年収は実際のところ1,000~1,500万円位が相場のようです。非常に狭き門である大学教授がこの年収ですので、この金額を見ても一般の薬剤師として年収1,000万円を目指すはかなりハードルが高いと言えるでしょう。
現在、薬剤師が年収1,000万円を達成するのに一番手っ取り早い方法は、やはり製薬企業のMR職として就職することかもしれません。MR職は薬剤師の資格は必ずしも必要ありませんが、薬学の知識は営業する上で大いに役に立ちます。大手製薬企業であれば、モデル年収として40代頃には年収1,000万円に到達し、役職定年前には約1,500万円に達する場合もあります。その他に、給与体系が実力主義の外資系企業(製薬企業や医療機器メーカー、CROなど)で活躍すれば年収1,000万は不可能ではありません。年収1,000万円に到達できる薬剤師とは、薬剤師という資格や枠にとらわれずに、いかにして収益を増やせるかということを真剣に考えることができ、それを実行に移すことができる人であるということです。
年収別の薬剤師の転職例
最後に、実際に薬剤師の資格を保有して転職した方の事例を紹介します。年収別の薬剤師の転職例ということで、転職活動前の年収が「400万未満」「400~600万」「600~800万」「800~1,000万」の4つに分けて掲載しています。
年収400万未満の薬剤師の転職例
- 大規模病院の病院薬剤師から治験施設支援機関(SMO)の治験コーディネーター(CRC)へ (26歳 千葉県在住)
地方国立大学薬学部の6年制学科を卒業後、病床数約900床の患者サービスに定評のある大規模病院に就職しました。もともとは、感染症医のもとで感染症について学びたいという思いがあったのですが、感染対策チーム(ICT)の加入希望が通らず、業務割り当ては産科・婦人科病棟の病棟薬剤師となりました。また、治験管理室業務も併任となり、婦人科系癌の抗癌剤の治験に治験コーディネーター(CRC)としても携わるようになりました。そのうち、CRC業務にやりがいを感じるようになり、抗癌剤だけでなく様々な新薬の治験に関与したいとの思いから、SMO(治験施設支援機関)への転職を決意しました。
転職においては、薬剤師の転職サイトではなく治験関連職業の転職サイトを活用し、現在勤務しているSMOを紹介してもらいました。以前の年収は約320万円であり、勤務体制も夜勤があったり休日当番があったりと不規則な生活であったのですが、現在の年収は400万円と80万円程増加し、平日の日中のみの勤務であるため比較的ワークライフバランスが保てるようになりました。
- 中規模病院の薬剤師から老人保健施設のケアマネージャーへ(30歳 北海道在住)
新設薬科大学の4年制学科を卒業後、地元にある中規模総合病院で病院薬剤師として働き始めました。祖母が認知症となり寝たきりの状態で亡くなったという経験から、医療面だけでなく生活面まで含めた高齢者ケアを支援したいという思いがもともとありました。実際に病院薬剤師として勤務してみると、1年間で多くの新薬が発売されており、数年単位で薬物治療が大きく変遷していることに気が付きました。もともと、勉強が好きな方ではなく新しいことを学ぶのは苦手であることから、医療用医薬品に対する興味よりも患者の生活をいかにして支えるかという点に興味がシフトしていきました。
29歳の時に一念発起して、介護支援専門員(ケアマネージャー)の試験を受験し合格しましたが、それを機に5年間務めた病院を退職し、老人保健施設にケアマネージャーとして就職しました。現在は研修中の身でありますが、薬剤師の資格を持っていること、医薬品に対する知識があることが強みとして生かされると実感しています。病院薬剤師時代の年収が400万円弱であり、現在の年収もほとんど変化はないです。ただし、利用者様のケアプランを作成する時のやりがいや、家族からの感謝や労いの言葉と比べたら年収にはこだわらなくても良いと考えています。
- 個人経営の保険薬局の薬剤師から全国チェーンの保険薬局の薬剤師へ(29歳 岡山県在住)
卒業後、そのまま大学の近くにある大学病院の門前薬局に就職。その薬局は4年次の実習において、2週間程度お世話になった経緯があり、管理薬剤師や社長との親交が卒業時まで続いていたため、就職を決めたという経緯がありました。
実際に就職してみると処方箋数は常に一定以上あるものの、昇給や人事考課などの制度が不透明で、社長の一存がそれに大きく関与していることに気が付きました。また、薬学部を持つ国立大学の近くに位置するため、比較的薬剤師数が充足している地域であり、初任給も19万円と低かったです。28歳を迎えて年収は400万円弱まで到達しましたが、相変わらず年間の昇給額は不安定で根拠に欠けるものかなあと感じていました。
そこで将来の不安を払拭するため、転職を決意。希望としては、年功序列で毎年安定して昇給がある調剤薬局。転職サイトを利用して、全国に100店舗以上展開しているチェーン薬局の一般薬剤師として、循環器科クリニックの門前薬局に勤めることになりました。年収は400万円弱から約500万円と100万円以上アップ。将来の収入の見通しが立つようになり、結婚式やマイホーム購入などの計画が立てられるようになったと思います。
年収400~600万の薬剤師の転職例
- 大規模病院の薬剤師からOTC専門の薬剤師へ(36歳 千葉県在住)
旧帝国大学薬学部の4年制学科を卒業したのち修士課程を修了し、都内にあるがん治療専門の病院としては日本で一番大きい病院入職を果たしました。院生時代の研究内容が、がん遺伝子における遺伝子多型と細胞障害性の抗癌剤の効果に関する研究であったため、集学的な治療と先進的な研究ができるがん専門病院を就職先として選択しました。そこでは、外来化学療法の患者の注射抗癌剤の調剤、無菌調製を行い、投与中に服薬指導などの薬学的管理指導を行うのを主な業務でした。また、研究内容としては特定の副作用が生じやすい抗癌剤の投与における、副作用発現因子の解析を行いました。研究にかけられる時間は日中の業務時間では確保できず、毎日深夜までデータ収集と解析に追われる日々でした。
そんな折、同性で歳も同じである大腸癌を患った外来患者を担当することがありました。遠隔転移のある進行結腸癌であり、2週間に1回の点滴治療が標準治療でした。がんの領域において、薬剤師としてできることを考え始めたことが転職サイトに登録したきっかけでした(少なくとも自分ではそう考えています)。それまで見てきた患者のほとんどが、がんを発症して時間が経過してから病院を受診するために進行してしまうことから、早期に発見できるよう受診勧奨する必要があると考え始めました。その結果、病院を受診する前の患者が最初に訪れる場所は薬を買い求めるドラッグストアであると考えるようになり、OTC販売の薬剤師としての転職を決めました。この選択が正しいかどうかはまだ判りません。しかし、例えば便秘薬を買い求めに来たお客様には便の性状や血便の状況を確認し、必要に応じては受診を勧めるなどの対応を行っています。周りにはあまり推奨されない転職かとは思いますが日々薬剤師として成長していっているつもりです。収入に関しては、病院薬剤師時代が年収500万円前後、ドラッグストアに転職後も同水準で推移しています。
- ドラッグストアの薬剤師から保険薬局の薬剤師へ(28歳 京都府在住)
新設薬科大学の6年制学科を卒業後、地元にあるドラッグストアで働き始めました(卒業年度の国家試験では不合格となってしまったため、薬学士としての就職)。登録販売士制度が開始するまでは、薬学士の初任給は月収25~30万円出すドラッグストアも多かったのですが、現在は登録販売士が概ねの業務を行えるため、薬学士の需要は少ないです。結局のところ、月収18万円からのスタートで、約半年間、商品陳列や発注・検品、新発売の医薬品の入荷について本部や管理薬剤師と検討するなどの業務を行いました。その後、国家試験までの6か月間は休職願いを出して必死に勉強し、その結果、晴れて翌年度から薬剤師としてドラッグストアで働くことができるようになりました。基本的な業務内容は最初の半年間と変わらなかったですが、薬剤師となってからはリアップやロキソニンSなどの一類医薬品の販売や、禁煙補助ガムの販売に力を入れました。
ドラッグストアではその後2年間働き、その後、もっと医療に関わりたいという思いが強くなったため、薬剤師の転職サイトを通じて近所の調剤薬局に転職。医療用医薬品の取り扱いは初めてだったのですが、整形外科の門前薬局であったため鎮痛剤や湿布薬などドラッグストアでも類似薬の取り扱い経験があり、比較的敷居は低かったと思います。ドラッグストア時代の年収は450万円、現在の薬局では500万円となり50万円ほど増加。整形外科で慣らした後は、糖尿病などの生活習慣病の治療や予防に携わりたいと考えており、数年後の再転職にむけて転職サイトはこまめにチェックしています。
- 製薬企業の研究職から生産資源研究所の研究員へ(33歳 京都府在住)
地方国立大学の4年制学科を卒業後、修士課程における細胞生物学分野の研究を経て、内資系中堅製薬企業の研究職として就職。学生時代には主に酵母や大腸菌、チャイニーズハムスターの培養細胞などを扱っていました、就職して最初に配属された部署が行う仕事はシーズ化合物をマウスに投与して半数致死量(LD50)を調査する毒性試験でした。学生時代は実験動物を扱った経験がほとんどなく、取り扱いについては直属の上司から様々なことを教わりました。しかし、日々マウスに極量の薬物を投与しているうちに、抑うつ傾向となってしまい、最終的には出勤できなくなってしまいました。。。心療内科でうつ病と診断され、傷病休暇を1年間取得した。その後も、実験動物に対する感情を抑えることができず、結果的に製薬企業を退職することに。その後、さらに2年間実家で家事手伝いをして過ごしました。
数年ぶりに大学院時代の恩師を訪れた折、府内にある生産資源研究所の研究員募集の要項を渡されました。教授の大学時代の友人が所長をしているため、その紹介で就職することに。現在はマウスやラットを扱うような仕事ではなく、イネの品種改良や遺伝子組み換えに関する研究に従事していて、大学院時代に習得した研究の手技や手法が生かされている気がして、大変嬉しく思っています。製薬企業の研究職時代の年収が480万円ほど、現在の年収は500万円ほど。年収においても満足しています。
年収600~800万の薬剤師の転職例
- 保険薬局の管理薬剤師から全国チェーンの調剤薬局のエリアマネージャーへ(49歳 兵庫県在住)
私立大学薬学部の4年制の薬科学科を卒業後、地元の病院に6年間、さらに漢方相談薬局に5年間勤務。その後、3度目の転職で大規模病院の門前に構える比較的規模の大きい薬局に一般薬剤師として就職しました。当時の調剤薬局産業は院外処方推進の時期にあり、降圧剤やスタチン薬など製薬企業においてはブロックバスターも多く、医師や薬剤師に対する接待や講演会が毎晩のごとく繰り返されていました。41歳の時に当時の管理薬剤師が定年を迎えたため、新しい管理薬剤師として抜擢され、一般薬剤師10名と事務員6名を束ねるようになりました。管理薬剤師になると同時に職員の目標管理や人事考課などについて社長に提言していました。モットーは「全ての薬剤師と事務員は頑張ったらその分平等に評価され、人事や昇給に反映されるべきである」と思っていました。
その後、某製薬企業主催のゴルフコンペで知り合った、全国チェーンの調剤薬局グループの常務と懇意となり、常務の話では、関西ブロックのエリアマネージャーの椅子が空いており、薬剤師としてだけではなく経営力に優れた人材を探しているとのことでした。常務の推薦で、調剤薬局グループのエリアマネージャー候補として就職し、2年間で10店舗以上のマネジメントに携わったのち、晴れてエリアマネージャーとなりました。現在は、各店舗に出向き売り上げ管理や店舗指導を行う傍ら、たまに臨時休暇の薬剤師の代役としての投薬業務も行っています。前職の年収は600万円でしたが、現在正式にエリアマネージャーとなってからは800万円となり、年収として200万円ほどの増加となりました。
- 国立病院の薬剤部長から離島の病院薬剤師へ(61歳 鹿児島県在住)
私立薬科大学の4年制学科を卒業後、地元にある国立病院の薬剤部に入職。当時は、国立病院が独立行政法人化される前であったため、国家公務員試験を受けて合格するといずれかの国立病院に配属になるシステムでしたが、地元の病院を希望してその希望がすんなり通ったというのは幸運なことでした。30代の中ごろに旧厚生省に1年間出向したことを除けば、その後は3年ごとに国立病院を転々と異動。50歳になった頃より地元の病院に戻って薬剤部長となりました。250床規模であるため、部下である薬剤師は7名と小規模でしたが、時代のニーズに答えた薬剤業務を実施してきたつもりです。
59歳を迎えたころには年収も780万円程となった。定年まであと1年間だけ頑張って、定年後は悠々自適な生活を望んでいましたが、病院薬剤師会の会合で離島にある地域中核病院の薬剤師が全員退職するという事態を聞かされ、このままでは島民8000人の生命にも影響するため薬剤師を緊急募集しているとのことでした。もともと釣りが好きなこともあり、離島への生活に憧れもありました。妻と相談し、国立病院機構を早期退職し、単身赴任で島へ渡ることにしました。現在勤務している地域中核病院は360床で薬剤師数3名と不足気味であり、業務も夜間まで及ぶため忙しいです。しかし、休みの日には趣味の釣りに勤しむことができていて充実しています。現在の年収は700万円と国立病院時代に比べれば少し見劣りがしますが、もともと定年退職を迎える予定だったので収入には満足しています。
年収800~1,000万の薬剤師の転職例
- 内資系大手製薬企業の営業職から国内ジェネリック製薬企業の営業職へ(45歳 東京都在住)
私立大学薬学部の4年制の薬科学科を卒業後、国内最大手の製薬企業に営業職として就職。当時はプロパーと呼ばれ、主に医師への情報提供、講演会、接待などを通じて、医薬品を処方してもらい、売り上げ目標を達成することが仕事でした。プロパーのほとんどが文系学部の出身者であり、薬学部出身の私は当時珍しい存在でした。時を同じくして、薬害エイズ事件やソリブジン事件などの薬害問題が表面化したこともあり、行政より製薬企業の営業職に対して安全な医薬品の使用のために情報提供するという大義名分のもと、名称がプロパーから医薬情報担当者(MR)に変更となり、形の上では資格職に変更になりました、実態は相変わらず売り上げ目標第一主義でした。40代となって同期社員が昇進して年収1000万円を超えるなか、売り上げ不足がたたり850万円しか稼ぎは無かったです。右肩上がりの成長を続けるために、半期で2億円以上の売り上げ目標に加えて、前半期よりも10%の増加率を課され、少しずつ疲弊していったことを記憶しています。
転機が訪れたのは、43歳の時です。何気なく見ていたMRの転職サイトに、近年盛んになった製薬企業のジェネリック部門の立ち上げにつき、MRを募集しているという求人を発見。今まで循環器領域を医師へ営業していましたが、ジェネリック部門であれば得意分野である製剤学や薬物動態学の知識も生かされるし、薬剤師相手の情報提供であれば自分が薬剤師である分、どのような情報が求められるか理解できると考え、すぐに転職活動を開始。現在の年収は800万円程にダウンしましたが、部門内の同年代社員の中では比較的良い方と言えます。売り上げ目標も相変わらず厳しいが、以前と違って自信を持って情報提供できるようになりました。
- 私立大学病院の薬剤部長・教授から保険薬局の薬剤師を経由して、新規立ち上げクリニックの薬局責任者へ(64歳 神奈川県在住)
東京都内の有名私立大学の薬学部を卒業後、同じく都内の私立大学医学部の附属病院の薬剤部に入局。その後、病院薬剤師をしながら10年ほどかけて出身大学の修士課程、博士課程を修了しました。社会人院生時代は寝る間もないくらい忙しい日々で、専門分野であるドラッグデリバリーシステムの研究と論文執筆に明け暮れました。博士課程を修了した後は自院の薬剤部で製剤室長となり、無菌製剤など院内製剤を行う傍ら、内分泌内科グループと共同でインスリンの吸入製剤の開発研究を行いました。商品化までは漕ぎ着けなかったですが、その後も経口で吸収が悪いとされる成分の全身投与を目的とした吸入製剤に関する研究を行い、54歳の時には薬剤部長兼教授となり、60歳までの6年間を教授として過ごしました。
退官後、地域薬剤師会の知り合いから調剤薬局の仕事を紹介され、1日120枚ほどの処方箋が持ち込まれる調剤薬局で管理薬剤師となりました。退官前の年収が900万円であり、管理薬剤師となった後は800万円まで低下しました。2年間勤務したのち、大学病院時代の知り合いの医師から形成外科医である息子が独立開業して美容クリニックを開くので、薬剤師として支援してやってほしいと依頼を受け、再度転職をする決意をしました。現在働いている美容クリニックでは、主に男性型脱毛症に対する投薬時の服薬指導や、特殊治療に用いる医薬品や医療機器の管理、時には院長への助言など幅広く業務を行っています。現在の年収は900万円であり、教授時代と大差なく満足しています。
本記事は2018/04/13の情報で、内容は薬剤師としての勤務経験を持つ専門ライターが執筆しております。記事の利用は安全性を考慮しご自身で責任を持って行って下さい。