大学や専門学校を卒業後、新卒で保健師として働き始める人もいますが、看護師からの転職者もいます。特に学生時代は、「保健師として働くには看護師の臨床経験があった方がよいのか」と一度は悩むものです。ここでは、それぞれの種類の保健師について、看護師としての臨床経験があった方が良いのか、ということについて述べていきます。
自治体の保健師へ転職する場合
結論から言うと、「採用時は看護師としての臨床経験はなくても良いが、実際に就職(転職)してからは臨床経験はあった方が良い」です。
自治体の募集要項を見ると、受験可能年齢が29歳までのところが多く、他の職場よりも年齢制限が厳しくなっています。一方で、臨床経験については問わないことがほとんどです。
高いところでは受験倍率が10倍以上となるため、一度の受験で合格できる保証はありません。そうすると、看護師として臨床経験を積んでいる年数分の受験チャンスを逃すよりも、保健師免許取得後はできるだけ早く就職(転職)したいと考える人が多いです。
実際に自治体で勤務するようになると、始めは母子保健を担当することが多いです。主担になると、新生児・未熟児訪問、乳幼児健康診査、ハイリスク児へのフォローで育児面、栄養面などで相談や指導をします。
最近は発達障害やその疑いのある児(境界児)、複雑な家庭環境の児などの困難ケースも増えています。「自分の子どもは正常なのか」「どう接したら良いのか」などの悩みを訴える保護者に対して、新卒の保健師は判断に迷うことも少なくありません。
もちろん、これらの悩みは看護師として臨床経験を積んだからといってすべて対応できるわけではありません。しかし、特に保健師としてキャリアが浅いうちは、少しでも判断材料が多い方が相談や指導という業務に当たる際には自分の自信になるものです。看護師として病気(異常)の状態を知っているという経験は判断材料になります。
企業の保健師へ転職する場合
産業保健師の場合は、看護師としての臨床経験があった方が圧倒的に有利になります。というのは、体調不良者や外傷への対応、救急搬送の要否の判断などが業務としてあるためです。
また「未経験可」としている場合でも、企業の保健師は人気があり競争率が高いことを考えると、看護師としての臨床経験のある方が採用されやすくなります。実際には、求人に「看護師としての臨床経験3年以上」という条件がついていることが多いです。
医療機関の保健師へ転職する場合
(※ここでは健診機関、地域包括支援センター、病院やクリニック、訪問看護ステーションで勤務する保健師について説明します。)
健診機関では職場の健康診断、自治体のがん検診、人間ドックを受診した方を対象に保健指導や健康相談を主に行います。地域包括支援センターは高齢者の外語予防ケアプランの作成、各種相談に応じます。
これらの職場の求人は「未経験可」としていることが多く、条件があったとしても「自治体保健師としての経験があれば尚可」などです。したがって、他の種類の保健師ほど看護師としての臨床経験は重要視されず、むしろ保健師として経験を積んだ人材の方が重宝される傾向にあります。
病院やクリニック、訪問看護ステーションの場合は保健師にどのような業務を求めるかによります。健康相談や保健指導のみが業務となっている場合は健診機関や地域包括支援センターと同様です。
しかし、中には看護師と変わらず、診療補助行為や療養上の世話を行うケースもあります。その場合は、せっかく看護師から保健師に転職しても以前と業務内容が変わらないということにもなりかねないため、求人票や面接時によく確認する必要があります。
学校の保健師へ転職する場合
後述する保育園ほどではありませんが、学校の保健師(専門学校や大学の保健室で勤務する保健師)の求人も、「看護師としての臨床経験○年以上」と条件付きの場合が多いです(経験年数は1年~2年程度が多い)。このように条件が付くのは、業務内容に外傷等の急病者への応急処置が含まれるためです。
学校保健師の求人自体が少なく、競争率が高いことも考えれば、看護師として一定の経験を積みながら転職活動をすることをお勧めします。
保育園の保健師へ転職する場合
保育園保健師の求人は、「看護師としての臨床経験3年以上、小児看護なら尚可」と条件がついていることも珍しくありません。病気のある園児または病気後まもない園児を保育したり、軽い外傷を負った園児への応急処置をすることもあるためです。
また、施設には医療スタッフが自分一人ということがほとんどです。以上のことから、保育園の保健師の場合は、他の職場よりも看護師としての臨床経験の必要性は高いものとなります。
本記事は2017/07/13の情報で、内容は保健師としての勤務経験を持つ専門ライターが執筆しております。記事の利用は安全性を考慮しご自身で責任を持って行って下さい。