土木施工管理技士の需要の変遷
現在、土木施工管理技士がかつてないほどに不足しているのは、1990年代以降の業界の変遷が深く関係しています。
- バブル崩壊後の大リストラ
戦後の高度経済成長期では、全国各地での建設ラッシュにより人材が不足し、景気上昇で給料もウナギ昇りでした。土木工事は体力的にきつい仕事ですが、学歴が低くても高収入を得られる仕事として人気があり、1級土木施工管理技士もその1つでした。このような時代に現役だった世代が、今の60代後半以上の方たちです。
しかし、1990年代のバブル崩壊と2008年のリーマンショックで、民間・公共工事とも激減してしまったため、今の60代後半(当時の40〜50代)に大量の余剰人員を抱えてしまいました。そのため建設会社も1級土木施工管理技士の大量リストラを行いました。リストラ初期は対象範囲を30代以上と広く設定し、リストラ手当も比較的好条件でした。このため、最も余っていた50代と同規模で、現場監督のエースとなる30代も辞めていってしまいました。図らずも、建設業界の先行きの悪さを鋭く見据えた優秀な現場監督ほど、建設業界に見切りを付けて去っていった形となってしまったのです。
- 業界の激変
しかし、2011年の震災、2012年の安倍政権誕生と公共土木工事による国土強靭化政策、2020年の東京オリンピック開催決定が相次ぎ、建設業界は一変します。これは好景気と単純に喜べるようなレベルに収まらず、深刻な資機材不足・人材不足を引き起こし、コストの急騰を招きました。それまでは利益度外視のダンピング入札でしのぎを削っていた公共工事の受注競争でしたが、今ではコスト増の中、限られた人材を使って利益をより多く確保できる工事のみを選んで入札するという状況になっています。
その結果、工事を発注しても建設会社の予算価格と発注者の落札予定価格が乖離してしまうケースが多くなり、入札不調や応札なしといった案件が急増しています。利益がある程度見込める工事があっても、手元の1級土木施工管理技士は全て他の工事に専任となっていて、もう登録の技士がいないために入札できないケースも多いです。建設会社は受注拡大のチャンスを掴み損ねている状況です。
- 資機材不足と人材不足でコストが急騰し、建設会社は思うような受注拡大ができない状況に陥っている。
1級土木施工管理技士の人材不足対策と今後の見通し
- 1級土木施工管理技士の試験合格者と合格率の推移
1級土木施工管理技士の人材がピークであった昭和55年頃の合格率は8割近くと高いものでしたが、公共工事の縮小、1級土木施工管理技士の余剰、求められる資質レベルの上昇を受けて、平成18年から試験が難しくなり一気に合格率が下がりました。平成22年の合格者はピーク時の1/7、合格率は1/4まで下りました。その後合格難易度が下げられ、人材確保に向かっていることが分かります。
- 人材不足対策
1級土木施工管理技士の人材不足の解決策として、下記のようなものが実施されています。
① 60代ベテランの再雇用
② 土木離職者の中途採用
③ 女性の採用
④ 学生のリクルート活動拡大
⑤ 業界を挙げた広告活動
①と②は短期対策、③〜⑤は中長期的な対策です。しかし、①②は現場最前線でバリバリ働ける人材としては力不足です。現在は、数年前から動き始めた③〜⑤の成果が期待されている時期にあります。
- 今後の見通し
2020年の東京オリンピックが1つの節目になり、現在のような大規模の建設投資は一段落する見込みです。しかしながら、今差し迫っている最大の課題は、高度経済成長期に作られたインフラが一斉に更新時期に入るということです。
業界の予測では2025年以降は既存インフラの維持点検・更新費用だけで建設予算を使い切ってしまい、新規のインフラ予算はなくなると言われています。維持更新工事は新しい建設物よりも遥かに工事の難易度が高いため、熟練の1級土木施工管理技士がより一層必要になるわけです。一方、1級土木施工管理技士の年代構成は40代以上に偏っており、今後10年で現役世代は激減します。したがって、若い世代の育成が急務の状況です。
このように、当面の間、土木施工管理技士の不足は解消の見込みがなく、資格保有者にとってはより有利な雇用条件になっていくと考えられます。
- 難易度の高い既存インフラの維持更新工事を大量に控え、当面は1級土木施工管理技士の不足が続く見込み。
本記事は2016/03/09の情報で、内容は土木施工管理技士としての勤務経験を持つ専門ライターが執筆しております。記事の利用は安全性を考慮しご自身で責任を持って行って下さい。