女性だけの「接待研修」は違法か?

ライター:井上通夫

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 下記のような相談が過去に寄せられたことがあります。下記のテーマは男女平等に関する内容であり、今回は、女性だけに特例の研修を実施する是非についてご説明したいと思います。

 

  • 「内定をもらった会社から『接待研修』を実施するから受けるようにという指示が来たが、よくよく聞いてみると「女性社員だけ」と言うのですが、これって法律違反にならないのでしょうか?」

 

会社の慣例だからok?

 女性にだけ「接待研修」を実施する会社の意図は何でしょうか?まずこの点から考えてみましょう。

 

 例えば、会社に外部からのお客様、あるいは取引先の方が来たら、受付係の社員が応接室に案内します。その後、「慣例」として女性社員が来客者にお茶をお出しするという会社は、今でも少なくありません。この「『慣例』だから」というのが、研修を担当する人事部や総務部の言い分かもしれません。

 

 「女性だけにお茶を出す役目をさせるのは、『男女差別』ではないのか?」と反論しても、「いやわが社は『慣例』として女性社員がお茶を出しているので、男女差別ではなく、『役割分担』と理解してほしい」と、「男女差別」を「役割分担」にすり替えられてしまうのです。

 

 「慣例」だから、男女差別ではないという言い分、法律的はどうなのでしょうか?

 

職場での「男女平等」に関する法律は?

 日本では、職場での男女平等を目指した法律に、1986年施行の「男女機会均等法」があります。この法律は1972年に制定された「勤労婦人福祉法」が関係しています。この法律は、働く女性の福祉を目的としたものですが、1979年に国連で「女子差別撤廃条約」が採択されたことを受けて、1985年に法改正する形で、「男女機会均等法」(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律)が制定されたのです。

 

 この法律の目的は、職場での男女差別の禁止と、会社が社員に行う募集・採用・昇給・昇進・教育訓練・定年・退職・解雇等でどちらかに不利益があってはならないとするものです。つまり、男女が仕事をする上で、男女差別を全面的に禁止したのです。

 

 1997年に、それまでの「男女機会均等法」を今の「男女雇用機会均等法」(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律進)という名称に変え、法改正が行われました。この改正によって、雇用面での女性差別が禁止され、女性に対する保護規定も撤廃されるに至りました。さらに2006年の改正では、この頃から社会問題になりつつあった「セクシャルハラスメント」も、禁止事項として規定されました。

 

「男女雇用機会均等法」違反の恐れあり

 冒頭の相談内容で問題になっている「女性社員のみの接待研修」ですが、「男女雇用機会均等法」第6条に違反する恐れがあります。

 

 第6条では、「事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。 1労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練、2住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であって厚生労働省令で定めるもの、3労働者の職種及び雇用形態の変更、4退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新」と規定しています。明らかに、「接待研修」は第1号の「教育訓練」に該当しますので、女性社員だけの研修は違法ということです。

 

 さらに、この条文の指針「募集及び採用並びに配置、昇進及び教育訓練について事業主が適切に対処するための指針」が、厚生労働省から示されているのですが、そこには「『接遇訓練を行なうにあたって、その対象を女性労働者のみとすること』は違法である」と明記されているのです。

 

 従って、「接待研修」を行う場合には、女性社員のみという分け方ではなく、新入社員全員に実施する、あるいは男女問わず総務課に配属される社員に実施する等の方法が妥当だと言えます。

 

対処方法は?

 もし入社予定の会社が、女性社員だけの「接待研修」を実施している場合、どう対処すればいいのでしょうか?

 

 先程も説明したように、本件は「男女雇用機会均等法」の趣旨から考えて、明らかに社員の配置における女性差別の可能性があります。いくら会社側が「慣例だ」あるいは「差別ではなく役割分担だ」と主張しても、男女差別だと言えます。従って、直接担当者に「男女雇用機会均等法」を根拠に、申し立てを行う必要があります。それでも、会社側が改善に前向きでない場合には、各都道府県の労働局長へ援助の申し立てを行いましょう。

 

 この「労働局長への援助の申し立て」についても、「男女雇用機会均等法」第17条に規定されており、法的に認められている権利です。この「紛争解決援助制度」では、厳正中立を保持して、公正な立場から援助を実施することはもちろん、当事者以外に援助や調停の内容が公表されることはなく、紛争当事者のプライバシーが保護される仕組みになっています。

 

 さらに、援助を申し立てた社員が、申請したことで解雇、配置転換、降格、減給等の不利益を被らないようにもされていますので、安心して申し立てができるのです。

 

今回の記事のまとめ

 ひと昔前は、「来客者にお茶を出すのは女子社員の仕事」という意識がありました。徐々に改善されているとは言え、古い体質の会社が存在することも事実です。

 

 ただ、男女の雇用を平等にする、あるいは職場での待遇に男女の差をつけないことは、全世界的な潮流です。労働人口が確実に減少する日本では、今後の経済は「女性の活躍なし」には考えられません。男性だけ、女性だけの研修は、「時代遅れ」という意識を持つことが大切です。

 

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ライター

井上通夫福岡で開業する現役行政書士

「転職でよくある悩み・トラブル!現役行政書士が解決!」シリーズ

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現在福岡市で行政書士事務所を開業(平成20年7月より)。現在、民事法務(契約書、内容証明、離婚協議書等)を中心に相続・遺言業務、企業の顧問等を行っている。大手クレジット会社、大手学習塾の勤務を経て現職。法律の知識や過去の職業経験を活かして、民事関係はもちろん転職・教育金融関係等の相談にも対応している。転職ステーションの中では、行政書士の視点から転職時の注意点などを幅広く解説中。

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