既に退職した会社から「残務処理」の目的で呼び出しを受ける例が、稀にあります。もちろん、既に席を置いていない会社であり、しかも退職したことで上司・部下の関係は解消しているのですから拒否しても構いませんが、「君じゃないとわからないから…」と言われれば、無下に断ることもできません。
このような場合、どのように対応したらいいのでしょうか?今回は、「辞めた会社の残務処理はどうすべきか」という点について紹介します。
考えられる「残務処理」とは?
会社を退職した後で、「残務処理」の名目で呼び出されるケースとして最も考えられるケースとしては、退職者しか知り得ない業務内容に関する仕事や、「守秘義務」に関する仕事でしょう。在職中に特別なポジションや特殊な業務に携わっていて、残った社員ではうまく対応できないような事態が発生した場合には、たとえ退職した会社からでも、呼び出しがかかることは十分想定されます。
退職する際には、在職中に作成した資料や仕事関係の書類等はすべて会社に残すことが多くの会社で義務付けられています。逆に言えば、私物を残すことはできないということです。従って、トラブルが発生しても、残されている資料や書類等などから、十分対応できるはずです。それでも、「その人だけが知りうる事情」が発生した場合には、頼らざるを得ないということになります。
出勤する義務はあるのか?
労働者と会社との関係を規定した法律は、「労働基準法」です。しかし、会社員が会社を退職した時点で、会社員と会社で結んだ「労働契約」は失効するわけですから、会社員と会社との権利・義務関係もなくなり、いくら「残務処理」のためと言われても、それに応じる必要はありません。
もちろん、残った「有給休暇」を消化している期間であれば、まだその企業に籍を置いていることになりますから、呼び出しに応じなければなりません。しかし、完全に退職した後では、いくら元上司といえども「出勤するように」という「命令」はできないはずです。せめて「お願い」のレベルですから、その「お願い」に応じるかどうかは、個人の判断、自由と言うことになります。
もし仮に、呼び出しに応じないことを理由に、賃金、ボーナス、退職金等の精算をしない、あるいは凍結するような場合には、「労働基準監督署」に相談すれば早い解決が望めます。また、退職関係の書類を出してくれない等も同様です。特に、書類を企業が出してくれないと、次に転職する企業の手続きが遅れることになります。
出勤しなければならない場合はあるのか?
基本的には、退職した会社の命令に、応じる必要はありませんが、それでも応じなければならないケースとは、どのような場合があるのでしょうか?
例えば、退職時に退職する会社員と企業との間で、「退職後も必要に応じて『残務処理』に応じる」旨の「誓約書」等の書面を取り交わしたとした場合、応じざるを得ないような感覚を多くの人が持つかもしれませんが、応じるか応じないかは、本人次第です。
こういう書面は、在職中の、いわば雇用主と労働者という関係から取り交わしたものですから、その力関係ゆえ、多くの人がその場では拒否できずに、署名・捺印するであろうことが想像できます。会社との関係が切れた退職後に、そのような書面に拘束されるのも酷な話です。もちろん、会社は「誓約書」を楯にして、出勤を迫るかもしれませんが、応じるか応じないかは、先述の通り、本人次第です。もし応じなかったとしても、会社が退職した辞めた会社員に損害賠償を請求するのは難しいでしょう。
ただ、自分で責任を感じて、会社と話し合った上で「残務処理」する分には、特に問題はないと思います。それでも会社側にはある程度の条件を出すべきです。例えば、「出勤時間の制約をせず、こちらの都合を優先する」「無給ではなく有給(時給制)にする」「残務処理の案件で問題が生じてもすべて会社が責任を持つ」等です。
退職後の「呼び出し」を受けないためには?
退職後の「残務処理」について説明しましたが、このような事態は辞めた社員にとっても、また会社にとって決してプラスにはなりません。辞めた社員としては、今後の仕事や生活に邁進していきたいという気持ちがそがれることにもなりますし、会社としても、「残務処理」ができていない業務が停滞することにもなってしまいます。
このような事態を避けるためにも、退職が決まった段階で、上司と相談をして早めに「残務処理」の計画を立てることです。そのためには、「退職」の気持ちが固まった段階で、直ぐに上司に報告することが大切です。そうしないと、残った「有給休暇」が消化できない等の不都合が起きる可能性もあります。
今回の記事のまとめ
今回は、退職後に会社から「残務処理」の名目で呼びされた場合について説明しました。
今はかなり薄れてきましたが、日本では会社と会社員とは家族のような感覚だった時代が長く続いてきました。その結果、いくら辞めた会社でも、「お世話になった上司」からお願いされたらなかなか断れないという人が少なくないというのが現状です。それでも、在職中に「残務処理」を終わらせることができなかった責任を「個人」が一方的に負う必要はありません。退職後の「残務処理」が発生しないように、退職までに「残務処理」を計画的に終わらせることが大切です。
井上通夫福岡で開業する現役行政書士
「転職でよくある悩み・トラブル!現役行政書士が解決!」シリーズ
現在福岡市で行政書士事務所を開業(平成20年7月より)。現在、民事法務(契約書、内容証明、離婚協議書等)を中心に相続・遺言業務、企業の顧問等を行っている。大手クレジット会社、大手学習塾の勤務を経て現職。法律の知識や過去の職業経験を活かして、民事関係はもちろん転職・教育金融関係等の相談にも対応している。転職ステーションの中では、行政書士の視点から転職時の注意点などを幅広く解説中。