保険薬局や病院の薬剤師の適性
保険薬局や病院の薬剤師の適性を語る上で欠かせないのは、何と言っても近年の薬剤師業務の変容ぶりです。つまり、現代の薬剤師と一昔前の薬剤師においては、必要とされる適性がやや異なっているということになります(この「一昔前」ですが、概ね15年くらいと見ても良いでしょう。)
簡単に言えば、20世紀の薬剤師と21世紀の薬剤師では業務内容が変化しているために、求められる資質や適正が変化したと言うことができます。ただし、医薬品や保健衛生を通して国民または患者さんの健康に貢献するという信念や倫理観が絶対的に必要であるということはいつの時代にも共通しています。
- 20世紀の薬剤師
まず、20世紀の薬剤師と21世紀の薬剤師の業務の違いについて述べておきましょう。20世紀の薬剤師業界においては製剤学の発展がありました。1990年頃までの医薬品は、錠剤やカプセル剤だけでなく、散薬や細粒、シロップ剤、エリキシル剤など製剤的に不安定で取り扱い難いものもまだまだ沢山あり、当然のことながら薬剤師はこれらの扱いにくい医薬品を安定した状態で患者に届けることに注力していました。例えば、散薬やシロップ剤の配合を行うに当たっては、配合変化に神経を尖らせたり、賦形剤を加えたり、混合した薬剤を遮光袋に入れたり、シリカゲルを入れたりするなどの様々な注意を向けていました。
その後、このような取り扱い難い医薬品は減少し、ほとんどの内服薬が錠剤やカプセル剤、フィルムコーティング、口腔内崩壊錠、徐放性製剤など、特に加工をしなくても優れた効果を発揮する医薬品が増えました。それ以降、薬剤師の調剤業務はいかに早く正確にピッキングをして、一包化するかという命題が出来上がりました。ここまでが20世紀の薬剤師の歴史です。20世紀の薬剤師においては、正確に素早く調剤する能力と散薬混合や水剤混和など製剤テクニックが重視されていたように思えます。この頃の薬剤師業務は対物業務であり、細かい作業を素早く行える人が薬剤師に向いていたわけです。
- 21世紀の薬剤師
21世紀に入り、まずは薬剤師による薬学的管理指導の1回あたりの報酬が保険薬局、病院ともに増加しました。これは、薬剤師は調剤のみを行うのではなく、患者さんに対して必要な薬学的管理指導を行わなければならないという2014年の改正薬剤師法にも繋がっていきます。少しずつではありますが、薬剤師に求められる能力が変化してきているのです。つまり、患者さんの病態を把握して状況を判断し、必要な薬学的管理指導を行うという、より臨床的な職能が求められるようになりました。そしてさらに、保険薬局、病院に限らず医師や看護師、ケアマネージャーなどの医療・福祉職と連携して患者ケアにあたることが求められるようになりました。
21世紀の薬剤師に求められている能力は2つあります。1つ目は臨床能力です。それにより患者さんに的確な薬学的ケアを実施することができます。2つ目に患者さんや他職種とコミュニケートできる能力です。それにより、質の高いチーム医療を患者さんに提供することができます。ただし、この2つの能力だけでは足りません。20世紀の薬剤師で必要とされた、素早く正確に調剤を行える能力や製剤テクニックはベースとして持っておく必要があるわけです。
- 保険薬局や病院の薬剤師の適性は製薬業界の発展などにより時代により変化してきた。
他職種における向き・不向き
ここまで述べたことは主に保険薬剤師や病院薬剤師に必要な適性・資質であると言えますが、それ以外の職種においてはどのような資質が必要なのでしょうか。
- (例1)研究職
研究職に従事している薬剤師に必要な資質は、毎日同じ作業になりがちな実験作業を根気よく繰り返すことができる能力、そして他施設で研究された論文に目を通し、常に一番手を目指すモチベーションの高さが求められていることでしょう。
- (例2)MR
MRに従事している薬剤師に必要な資質は、営業職という立場上、顧客である医師や薬剤師を喜ばせる能力が必要です。このようにして、担当する製品を処方・購入して頂けるよう努力する姿勢に加え、的確に安全性情報や有効性情報を提供して競合他社を寄せ付けない魅力を備えていることが重要と言えます。
- (例3)ドラッグストア
ドラッグストアで従事している薬剤師に必要な資質は、販売職という立場上、お客様に対して必要とされる医薬品を的確に選定して、お勧めすることができる能力が必要です。接客能力と提案することができるだけの薬学知識、この2つが求められます。
これまでに述べたように、薬剤師という同じ資格であっても職種によっては向き・不向きが異なります。新卒者だけでなく既卒者にとっても様々なフィールドが広がっている薬剤師という専門職は、多種多様な人材がそれぞれに向いている職種を探すことのできる非常に稀な資格なのではないかと考えられます。
- 保険薬局や病院以外の薬剤師には個々に求められる資質・適性がある。
本記事は2015/05/07の情報で、内容は薬剤師としての勤務経験を持つ専門ライターが執筆しております。記事の利用は安全性を考慮しご自身で責任を持って行って下さい。