定型の仕事から経営レベルの法務まで何を担当する
法務には、担当する守備範囲がある程度の経験があればできるものと、長年の経験を積んで行かないとできないものといったように、ピンからキリまであります。たとえば、定型の売買契約書や秘密保持契約書を締結するだけの法務担当はそれほど経験を積まなくてもすぐになれます。
また、仮に定型契約書がなく、一から文章を起こし、目的の契約書を作ろうと思えばこれも総務サイトなどからひな形を引っ張って来て作れば簡単にできます。ただ、これのみの仕事をもって、「法務」と言えるかどうかははなはだ疑問です。“総務担当”が片手間にやるぐらいのレベルです。
しかし一方、昨今のコンプライアンスの高まりや危機管理に対応でき、またそれを実現するための内部統制システムの構築を任されたり、弁護士資格をフルに活用し、高度な訴訟を仕切るような、ある種理想の法務担当はそうそうなれるものでもありません。
- 法務の仕事内容は、ある程度の経験があればできるものから、長年の経験を積んで行かないとできないものまである。
会社事業におよぶ範囲の法規知識と訴訟経験があれば完璧
後者を真の法務担当とするなら、それになるためにはやはりそれなりの基礎知識と経験が必要です。知識においては、学問的なベースがあるにこしたことはありませんが、必要なのは所属する会社の運営におよぶ法規制にはどんな法律があるか、逆にいうと、まさか「事業をしていく上で、そんな法律があるのを知らなかった。」ということにならないレベルの知識があることです。法律の中身の深いところは顧問弁護士に任せるとして、まず、この入口はしっかり押さえておきたい知識です。
次は経験です。これは経験を積めば積むほどいいのですが、行きつくところは訴訟を経験していると全体像がわかります。会社のささいなトラブルは火事と一緒で、うっかりした火の不始末が一家全焼になるプロセスは、いかに日頃の用心が大事か、予防システムが大事かを教えてくれます。訴訟は会社の火事です。会社を全焼させてしまってはなにもならないわけで、燃えても初期消火する方法、半焼でもいかに類焼を防ぐかを経験上知っていれば完璧です。
- まずは、法規制にはどんな法律があるのか基礎知識を押さえておきたい。
リーガルマインドと人間力
経験は大事ですが、それ以上に大事なのがマインドです。リーガルマインドとかコンプライアンスという言葉は、会社の法令順守の意識を言います。全社員がこの意識を持っていれば問題はないのですが、普通の会社はそうではなく、ついうっかりから故意まで、危険がいっぱいなのが社員であり会社の仕組みです。
その中で、唯一、信頼に値するリーガルマインドの保持者が法務担当です。いわば、企業防衛の最後の砦です。そのための沈着冷静な判断、法的知識に基づいた分析、幹部や関連部署と調整し、時には彼らを説き伏せる説得力など求め出せばきりがありません。
- 経験は大事だが、それ以上に大事なのがマインド。
みんなの知恵を結集できるコーディネーター
法務になるための知識、経験、マインドを述べてくれば以上のようになりますが、これだとスーパーマンのようです。言えることは、ひとりの法務担当がこれらすべてが完璧なのではなく、実際には法務部、総務部、人事部などの関連職種の人が補完しあいながら仕事をしています。そうでないと、完璧な法務になれる人など一生出てきません。
また、逆に法務担当にコーディネーター能力が必要と言われる所以です。それぞれ専門性を持つ人たちが集まって会社法務全体を支えているというのが実際のところです。
- それぞれ専門性を持つ人たちが集まって会社法務全体を支えている。
本記事は2015/10/22の情報で、内容は法務としての勤務経験を持つ専門ライターが執筆しております。記事の利用は安全性を考慮しご自身で責任を持って行って下さい。