「内定」を辞退したい!注意することとは?

ライター:井上通夫

2821views

 転職を考えて、複数の会社を受けた場合、時間差でいくつかの会社から「内定」が出ることは少なくありません。その時、第一志望の会社が最初に「内定」を出してくれたら問題ないのですが、そうでない場合に、第一志望でない会社に「内定辞退」を伝えなければならなくなります。

 

 内定の辞退は、どのように伝えればいいか、タイミングはいつなのか、なかなか悩ましい問題です。今回は、「内定辞退」について、詳しくご説明します。

 

「内定」とは何か?

 会社の入社試験を受けた後に、人事担当者から「内定」の知らせをもらいますが、この「内定」については、明確な定義があるわけではありません。ただ一般的には、「採用する会社と採用される人との合意である」とされています。なので、労働者と使用者とが結ぶ「労働契約」に準ずるものだと言えます。

 

 「契約」の一つですから、入社試験を受けたいという人が、会社に入社の「申し込み」を行い、その「申し込み」に対して、会社側が「承諾」を行ったと考えた方がわかりやすいと思います。この「申し込み」と「承諾」の成立によって、「契約」が成立したということになるのです。

 

「内定」と「契約自由の原則」

 日本の民法では「契約の自由」の原則を取っています。人と人、会社と人、会社と会社との契約は、自由に行ってもらい、なるべく国家が関与しないというのが基本です。でないと、自分の意思で自由な契約ができないばかりか、一つ一つに国家が関与していたらスピーディーな取引ができなくなります。

 

 また、契約の当事者間で生じた問題も、あくまでも当事者間の話し合いで解決することが基本です。但し、契約相手が詐欺等を犯し、刑事事件に発展した場合には国家(警察等)が関与することになります。

 

 先程説明したように、「内定」も契約の一つですから、契約の形態や内容等について、当事者の一方が極端に不利でなく、また「公序良俗」に反さないのであれば、「契約」を結ぶことは両当事者の自由です。また同時に、一度結んだ「契約」についても、相手方が納得をすれば「白紙に戻すこと(法的には契約解除)」も認められています。

 

 しかし、いくら「『契約』を解除することも自由だ」と言っても、簡単に「解除」することが認められると、「契約」が成立した後も、「本当にこのまま、相手は契約し続けてくれるのだろうか」といった不安に駆られ、「契約自由」の原則がかえって、社会を混乱する元になってしまいます。

 

 「内定」を出した会社も同じで、せっかく「求人広告」を出したり、採用試験をしたりして、ある程度の費用をかけて行った「採用」が、勝手に白紙に戻されてしまえば、金銭的にも労力的にも大きな損失が生じてしまいます。そこで、「内定」をもらった人が会社に「内定辞退」を行う際にも、ある程度のルールが必要となってくるのです。

 

トラブルのない「内定辞退」とは?

 複数の会社から先に「内定」をもらった後に、第一志望の会社から「内定」が来た場合には、先に「内定」をもらった会社に「辞退」を申し入れる必要があります。直接会社の担当者に連絡して、「辞退いたします」と伝えるのは、誰でも気が重いことですが、会社としても、早めに連絡をもらわないと、入社を前提として段取りを組んでいるはずですから、長引けば結局迷惑になってしまします。

 

 もし、「承諾書」や「誓約書」に署名や押印をしていたとしても、「内定」を辞退することは可能です。しかし、それらの書類に自ら署名・押印した責任は決して軽くはありません。先程説明したように、「内定」をもらいその場で承諾したことは、「契約」が成立したことを意味するわけですから、それを「白紙にする」=「内定を辞退する」意味と、その影響は大きいということを念頭に置いて対応する必要があります。

 

 まず会社の担当者に伝えるタイミングですが、とにかく「できるだけ早く」が大原則です。一日、一時間遅れるごとに、相手の会社に迷惑がかかると思って間違いありません。会社としては、「内定」を受けた後は、社内での報告、新たな募集活動等、次に向けたスケジュールが目白押しです。もちろん、会社にとって「内定」を辞退されることは、痛手には違いありませんが、できるだけ早く「内定辞退」という意思を確認して、痛手を最小限にしたいというのが本音でしょう。

 

<※>民法の規定は?

 

 雇用契約の終了について、民法第627条第1項では、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と規定しています。

 

 つまり、働く期間を定めなかった時は、使用者(会社)も労働者もいつでも解約ができるということです。しかも、どちらかが「解約の申入れ」をした後2週間で、「雇用契約」は終了するということになります。ですから、会社から「内定」をもらった場合、雇用契約開始日(入社日)の2週間前までは、「内定辞退」が可能ということになります。 

 

 もし、雇用契約開始日の2週間を切って、「内定」を辞退した場合は、どうなるのでしょうか。例えば、10月1日が入社日だとして、9月25日に「内定」を辞退した場合、その2週間後の10月9日が「雇用契約」の終了日となります。理論的に10月1日に入社していることになりますから、10月9日で「自己都合解雇」という形になります。ただこれはあくまでも理論上で、実際には、入社も退職もしなかったということになります。

 

 ただ、民法第628条で「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」と規定しています。従って、内定辞退者に対しては、会社は損害の賠償を請求できることになります。ただ、これもあくまで「理論上」ですから、会社と辞退者との話し合いで、その点をどうするのかを決める必要があります。

 

 

 次に、担当者への伝え方ですが「この度、貴社から内定をいただいた○○と申します。就職活動を行っていく中で、他の業種に興味が出てまいりましたので、そちらの分野で働くことにいたしました。ですから、内定を辞退させていただきたいと思います。」等と、誠意ある言葉で伝えましょう。WEBからエントリーをした際の採用専門のメールアドレスやメールフォームがあれば、決してメールで伝えることも失礼ではありませんが、まだ日本の社会では、メールで大事なことを伝えることに抵抗感がありますから、できれば避けた方が賢明でしょう。

 

 最後に理由ですが、「他の会社に行きたいから」というのは、なかなか言いにくく、つい「家族が病気だから」等自分と関係ないことを理由にしてしまいがちです。しかし、相手方も話した感じで、本当か嘘かわかってしまいますから、正直に話しても構わないと私は思います。

 

 

今回の記事のまとめ

 転職活動や就職活動の中で、やむを得ない流れで内定辞退を行うことは十分にあり得ることです。その場合は先方になるべく迷惑がかからないように、また失礼のないように対応しましょう。上記の民法の規定もルールとして理解しておくことをオススメします。

 

転職サイトランキング【最新版】

  1. 転職最大手の「リクルート」は求人件数の多さはもちろん、カバーする業種・職種の幅も業界トップ級で常に人気が高い!

  2. 転職業界大手の「マイナビ」!スキルや年収を適正に評価し、年収を最大限アップできるように担当者が徹底サポート!

  3. 年収アップに自信あり!利用者の7割以上が年収アップ!リクルートエージェントやマイナビエージェントと併用する人も多い!

ライター

井上通夫福岡で開業する現役行政書士

「転職でよくある悩み・トラブル!現役行政書士が解決!」シリーズ

IMG_20160912_174830(3)

 

現在福岡市で行政書士事務所を開業(平成20年7月より)。現在、民事法務(契約書、内容証明、離婚協議書等)を中心に相続・遺言業務、企業の顧問等を行っている。大手クレジット会社、大手学習塾の勤務を経て現職。法律の知識や過去の職業経験を活かして、民事関係はもちろん転職・教育金融関係等の相談にも対応している。転職ステーションの中では、行政書士の視点から転職時の注意点などを幅広く解説中。

ページ上部へ移動する