創業者が1人で立ち上げたような創業したてのベンチャー企業に参謀として参画する場合、若しくは数人の会社に少し遅れてジョインする場合、会社は生まれたての赤子のように何も纏っていないようなものです。
もちろんその段階での入社は、会社の諸整備の拙さを嘆くよりも、「これから一緒に作っていく」、そんな頼もしい気概を覚えることでしょう。
ですが、気概そこそこに関係役所に足を運び、取り急ぎ整備を整えなければいけないものが、厚生年金や健康保険といった「社会保障」です。今回は「転職先が創業したてのベンチャーだったときの社会保障の考え方」についてまとめてみます。
1.法人設立と社会保障
まず、社会保障とは総称です。具体的には以下の4種類を指します。雇用保険と労災保険のみを指して「労働保険」というケースもよくあります。
- 健康保険
主に民間企業の従業員に適用される公的な医療保険です。ほとんどの年齢層に3割の医療保険が適用されることから「3割保険」という言い方をします。
- 厚生年金
日本の民間企業の労働者が加入する公的年金制度です。業務の大半は、日本年金機構に移管されています。
- 雇用保険
雇用保険法に基づき、国が主体となって運営する保険です。失業給付や、雇用安定事業、能力開発事業を行うことを目的としています。
- 労災保険
労働者災害補償保険法に基づき、国が中心となって運営する保険です。労災保険は事務所単位で適用されます。原則として、労働者をひとりでも雇用する事業は強制適用とされています。
健康保険と厚生年金の加入は、法人設立後5日以内とされています。法人設立後、社長1人の会社形態でも、会社と社長のあいだに労務形態があれば、これらの加入が必要です。ただ実際は、法人設立後に登記簿謄本が完成するまでに10日前後の日程を要するため、業務委託を受けている日本年金機構では柔軟に対応しているようです。
創業したてのベンチャーに参画する場合、それまで経営者は個人事業主として事業を展開し、参謀役の入社に合わせて「法人化する」場合もあるでしょう。その場合は、これらの手続きは参謀役が担うことになるケースもあるため、スケジュール感を把握するようにしましょう。
2.法人設立後に入社をする場合
法人設立時の諸手続きを一通り終えたあとのベンチャーに従業員として参画する場合。この場合は、以下のスケジュールで資格取得届を提出しなければなりません。(※資格取得届:新しく入社した人が会社の一員となり、会社で加入している各種保険制度の対象となるという資格の取得届)
健康保険 | 入社した日を含む5日以内 |
---|---|
厚生年金 | 入社した日を含む5日以内 |
雇用保険 | 入社した月の翌月10日まで |
転職先が創業したてのベンチャーの場合、経営者に社会保障まで考える余裕がないこともあります。自身の入社だけではなく社会保障の加入スケジュールまで把握した方が、順調な滑り出しができます。
3.役員で入社をする場合
役員で入社をする場合は、社会保障にどのような違いがあるのでしょうか。
まず、社会保障のなかの「雇用保険」に関しては、代表取締役や取締役といった登記に記載される役員のほか、監査役も加入することができません。労災保険に関して通常は、雇用保険と同じく適用外になるものの、労災保険特別加入にて労災保険に加入させることもできます。
4.労使折半の考え方
転職先が創業したてのベンチャーだった場合、もうひとつ注意するポイントがあります。それは「労使折半」という考え方です。
法人が厚生年金や健康保険を支払う場合、半分を会社から、もう半分を労働者側から支払うことになります。創業したてのベンチャー企業にとってはこれが大きな負担です。自身が役員としてして法人に参画し、その後に社員を増やす際は、労使折半によるコスト増大をしっかりと認識するようにしましょう。
5.社会保険料は受け取るものではなく稼ぐもの
最後は少し本旨からずれるかもしれませんが、前述した通り健康保険をはじめとした社会保険料は創業したての企業にとって大きな負担です。自身が参画することで、創業社長の負担感が強まってしまっては、加入する者と迎える者、どちらも望まない展開となってしまいます。
そのため、転職先が創業したてのベンチャーだったとき、社会保険料は「受け取るものではなく稼ぐもの」という考え方が重要ではないかと思います。少なくとも「自分で必要とする社会保険料に関しては自分で稼ぐ」という考えを持つようにしましょう。それが社長の負担を除くと同時に、役員間(若しくは役員ではなくともスタートメンバー)の信頼感を醸成し、企業の発展に寄与していくものと思います。
よく創業したてのベンチャーは「ひとり1億円稼いで認められる」という話も聞きます。業種によって売上予測は異なるため、全ての業種に適用するのは難しいと思いますが、ひとつの至言だと思います。
転職時は創業したてのベンチャーだった企業が、一心不乱に働いているうちに、いつの間にか大きなオフィスを借り、従業員が増えていたという成長物語も決して少なくありません。それを実現できるようにスタートアップベンチャーでは何事も当事者意識を持ち業務を行うようにすることが必要でしょう。
工藤崇丸の内に本社を構えるFP会社の代表取締役社長
「FP会社社長が語るライフプランと転職」シリーズ
丸の内に本社を構えるFP会社株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO。1982年北海道出身。ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいとお考えの個人、FP領域を活用してFintechビジネスを開始・発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。資格予備校である株式会社TAC出身のため、資格ビジネス、人材キャリアビジネスにも精通。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居企業。執筆実績多数。株式会社FP-MYS公式ホームページ(http://fp-mys.com/)