転職時に「身元保証書」や「誓約書」を提出拒否できるか?

ライター:井上通夫

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 転職先から内定をもらうと、人事担当者から「身元保証書」と「誓約書」の提出を求められます。「身元保証書」は、会社に損害を与えた場合、身元保証人が損害を連帯して負うという内容、「誓約書」は、会社の名誉を傷つけてはならないという内容です。一方的すぎる内容なのですが、提出を拒むことはできないのでしょうか?そもそも「身元保証書」や「誓約書」にはどのような法的根拠があるのでしょうか?

 

「身元保証書」とは?

 会社が新たに社員を採用する時、最も恐れることは、「この新入社員、きちんと働いてくれるだろうか?」という心配以上に、「この新入社員、会社のお金を使いこんだり、持ち逃げしたりしないだろうか」ということです。もちろん、入社試験の際に試験や面接で人となりを判断して、内定を出しているとは言うものの、実際に働いてもらわないとわからないのが正直なところです。

 

 そこで、「もしも」「万が一」を考えて、入社時に「身元保証人」を立ててもらうということになります。基本的に社員がお金の使い込みや持ち逃げなどの不正を行った場合には、懲戒解雇等の処分を行った上で、損害金を請求する方法が一般的です。しかし、本人の支払い能力がない、そもそも本人の居場所がわからない等の場合には、本人に代わる人に肩代わりしてもらうしかありません。それが「身元保証人」ということになります。つまり、借金で言えば、「連帯保証人」と同じ考え方です。

 

「誓約書」とは?

 入社の際に提出を求められる「誓約書」ですが、これは会社に対する約束事と考えて良いと思います。通常、会社に入社する際には、労働内容、賃金、勤務時間、休日等について、会社と労働者とが同意したことを示す「労働契約書」を労使間で交わします。そして現在は、その「労働契約書」と併せて、会社が書面で「誓約書」を準備し、入社時に提出することを義務付けている場合がほとんどです。

 

 「誓約書」では、労働条件以外に、社員に是非とも守ってもらいたい事項をきちんと書面にすることで、その会社の社員としての自覚・認識を徹底する意味合いがあります。つまり、「うちの会社にいる以上、これだけは守ってもらいたい」という、いわばモラル的な要素が強いということです。「契約書」ではなく、社員が会社に対して提出する「誓約書」ですから、通常「誓約書」を受け取った会社は、コピーを社員に渡します。

 

 この「誓約書」の中には、在職中はもちろん、退職後に守ってもらいたい事項(秘密保持等)を盛り込む場合もあります。退職後の遵守事項は、通常退職時に取り決めるのが一般的ですが、無断欠勤でそのまま退職する等の場合も想定して、あらかじめ決めておく所も少なくありません。

 

「身元保証書」「誓約書」を提出する意味は?

 「身元保証書」を提出する意味については、「身元保証に関する法律」というもので決められています。そこには、「従業員の行為によって会社が被った損害を補償することを約束すること」(第1条)とあります。先程説明したように、借金の「連帯保証人」的な立場だと言えます。

 

 ただ、新入社員を無制限に保証するというのは、引き受けた「身元保証人」には荷が重すぎます。そこで、同じく法律では主に2つの制限を設けています。

 

 1つ目は、保証期間は定めがあれば5年までであり、定めがなければ3年ということです。つまり、「身元保証書」に記載できる「身元保証期間」は5年が上限、期間について何も記載されていない場合には、3年が上限ということになります。また、「自動更新」、つまり「さらに〇年保証期間を延長します」といった記載はできません。

 

 2つ目は、新入社員が転勤等の事情で、勤務内容が大きく変わったため、「身元保証人」の責任が重くなった場合には、会社は「身元保証人」にその件を報告する義務があるというものです。例えば、会社に入社した際には営業担当だった人が、2年後に経理担当になって、ある程度の会社のお金を扱うようになれば、万が一の事態があった場合、「身元保証人」の負担は大きくなります。そうなれば、入社時に快く引き受けた「身元保証」について、再考する「身元保証人」もいるのではないかということです。

 

 一方、「誓約書」については、あくまでも「新入社員」と「会社」との約束事を明文化したものです。従って、法的な意味というよりも、会社員、社会人としても自覚を持たせようとするものだと考えて良いと思います。

 

提出拒否できるか?

 「身元保証書」と「誓約書」の提出を会社から求められた場合、拒否できるのでしょうか?

 

 この2つの書類については、多くの場合に「入社の際の必要書類」とされています。従って、「私は書類の提出に納得できない」等の理由で拒否し、提出しなかった場合には、解雇の対象になります。

 

 もし即日解雇されたら、「労働基準法」が定める「労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前にその予告をするか、30日前に予告をしない使用者(会社)は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない」(第20条第1項)に反するとして、異議を申し立てることができるでしょうか?判例では、この規定には「労働者の責めに帰すべき事由」の場合、つまり「労働者に解雇の責任がある」場合には、「解雇予告手続きは不要」とされています。

 

 従って、「身元保証書」と「誓約書」が「入社の際の必要書類」とされていて、それを労働者が自分の意思で提出しなかった場合には、まさに労働者に解雇の責任がありますから、即日解雇されても異議を申し立てることは難しいということになります。

 

 

今回の記事のまとめ

 今まで説明したように、「身元保証書」と「誓約書」は、入社時の必要種類という位置付けですから、基本的に提出拒否はできません。ただ、それぞれの内容が合理的なものでない場合、例えば「身元保証人」に著しく負担がかかる内容であったり、法律で定める内容から逸脱したもの(例:保証期間が5年を超える)であったりした場合等は、会社に確認をする必要があります。その上で、内容が社会通念上、また法律上妥当なものに修正され、納得した上で提出することが大事です。

 

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ライター

井上通夫福岡で開業する現役行政書士

「転職でよくある悩み・トラブル!現役行政書士が解決!」シリーズ

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現在福岡市で行政書士事務所を開業(平成20年7月より)。現在、民事法務(契約書、内容証明、離婚協議書等)を中心に相続・遺言業務、企業の顧問等を行っている。大手クレジット会社、大手学習塾の勤務を経て現職。法律の知識や過去の職業経験を活かして、民事関係はもちろん転職・教育金融関係等の相談にも対応している。転職ステーションの中では、行政書士の視点から転職時の注意点などを幅広く解説中。

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