突然の内定取り消し!対処法を教えます

ライター:井上通夫

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 内定していた会社から、突然「内定取り消し」が通告される、考えただけでパニックになりそうです。しかも転職者で、既に現在勤めている会社に「退職願」を出した後だったら、どう対処していいか、途方に暮れてしまうことでしょう。

 

 しかし、全くありえない話ではありません。「内定取り消し」とはどのような意味があるのか、どのような場合に有効なのか、そしてそのような事態に遭遇した場合の対処法をご説明します。

 

内定にはどのような意味があるのか?

 会社の採用試験を受けた後、会社から「内定通知」をもらうことがあります。「内定」ですから、よほどのことがない限り、「このまま行けば『正式採用』になる」と思って間違いないでしょう。それでは、「内定」と「採用」はどう違うのでしょうか?「内定」とは、そもそもどのような意味があるのでしょうか?まず、この点から考えてみましょう。

 

 「内定」については、明確な定義があるわけではありませんが、過去に「内定」をめぐる裁判の判例から、次のように定義されています。

 

  • 「内定」とは、一般的に採用する会社と採用される人との合意、つまり『労働契約』の成立である。

 

 ですから、会社から「『内定』を取り消します」と通告されることは、この「労働契約」の一方的な解除ということになります。

 

 大前提として日本では「契約の自由」が原則で、個人や会社の責任で契約の締結も解除もできるという考え方ですが、契約を自由に解除できるとは言っても、あらかじめ契約の当事者間で「どのようなことが起きたら契約を白紙に戻せるか」を決めておかないと、契約を締結した後でも「いつ解除されるのだろうか」といつもびくびくすることになってしまい、契約社会の安定性が確保できません。つまり、内定をもらった側が納得するような合理的理由での取消でない限り、会社側の「権利の濫用」となり、トラブルのもとになってしまうということです。

 

「適法な内定取り消し」とは?

 それでは、「権利の濫用」ではない、適法な内定取り消しとはどういったものでしょうか?その条件としては「客観的」かつ「合理的」であると認められ、「社会通念上」内定を取り消すのに「妥当だとされる理由」が必要になります。

 

 この理由を聞いて「それでは具体的にどのような理由が該当するのか」と疑問を持たれたかも知れません。それは当然のことですが、結局のところ取り消された理由を個別に検討し、適法性を判定するしかないのです。従って、ある理由がAさんとB会社には適法となっても、CさんとD会社にはそうではないという可能性はあります。

 

 ただ、判例を見てみると、以下の2つの理由については、「内定取り消し」が適法と判断される可能性が高いと言えます。

 

  • (1)会社が内定を出した後、その会社で勤務を続けていくことが困難な事態が採用予定者に発生した場合
  • (2)採用予定者が、採用試験等において、経歴や学歴等の重要な部分に虚偽の申告をおこなったことが判明した場合

 

 (1)についてですが、例えば内定後に採用予定者が治癒できないほどの大けがを負った、あるいは勤務を続けていくには困難が予想される病気を患った等です。内定者には通常、健康診断を受診させる会社がほとんどですが、そこで大きな病気や障害が判明し、会社の仕事をするには困難と判断された場合も、それに当たります。もちろん会社側としては、入社までに治療することを条件に内定取り消しの判断を保留することになりますが、それでも治癒できなかった場合には、適法とされる可能性は高いでしょう。

 

 (2)についてですが、転職者であれば今までの職歴やそこでの実績・経歴についての虚偽、新卒であれば学歴の虚偽(中退を卒業と言った場合も)が、該当します。特に、転職者に対しては、会社が即戦力として採用することを考えると、職歴、実績、経歴の虚偽報告は、かなり罪深いと言わざるを得ません。

 

内定が取り消された時の対処法とは?

 では上記で説明した(1)及び(2)に該当しない理由で、内定が取り消された場合、取り消された側はどのように対処したらいいのでしょうか?

 

 「内定」は「労働契約の成立」だと説明しましたが、契約が成立することで、契約当事者に義務が生じます。会社側には内定者を雇用する義務、内定者には会社に入社して「労働契約」どおりに仕事をする義務です。会社が、一方的に社会通念上妥当でない理由で内定を取り消した場合には、この義務に違反したことになります。民法ではこれを「債務不履行」と言います。わかりやすく言えば「約束違反」です。この点については、民法第415条に「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる」とあります。債務者が会社、債権者が内定者ですから、内定者は会社に損害賠償を請求できることになります。

 

 ここで一つ疑問が出てくるのが、「では(1)や(2)の理由で内定取り消しになった場合にはどうなるのか」ということです。この場合も、内定が出た時点からそれが取り消される過程で、会社側が詳細な説明をしていなかったならば、内定者に損害賠償の請求ができる場合があります。この場合、請求できる根拠としては、民法第1条第2項の「権利の行使及び履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」から来ています。つまり、会社は内定者が持つ正当な期待に沿うような行動(この場合は「どのような場合取り消しになるか」などの丁寧な説明)をとらなければならず、それが十分になされていなかった場合には、内定者から損害賠償を請求できる余地がある、ということです。

 

 ただ、内定取り消しの理由について、それが適法かどうかという判断は、当事者間では難しいことが予想されます。もし一方的に会社から「内定取り消し」の通知が来た場合には、即答せず労働関係に精通した弁護士に相談した方が良いでしょう。弁護士が代理人となって会社と交渉してくれますし、協議で決着がつかなければ、内定取り消しに対する無効や損害賠償を請求するための訴訟を起こすことが可能です。

 

 ただ、裁判で勝訴して内定者側の主張が認められ、その会社に入社できたとしても、自分が希望していた業務につける保障はありません。働きづらい環境に置かれる可能性があります。できれば、双方の主張がぶつかり合う裁判は避けて、協議によって解決を図ることが理想です。

 

 

今回の記事のまとめ

 会社から突然「内定取り消し」の通知が来た場合の対処法をご紹介しました。仮に「内定取り消し」に関して、内定者の主張が認められても、その後の仕事、待遇、人間関係等を考えた場合、そのまま何事もなかったように入社し、仕事を続けていくには、かなりの強いハートが必要かもしれません。

 

 特に転職者は、現在勤めている会社に早めに「退職届」を提出してしまうと、仮に内定が取り消された場合に戻る所がありませんから、「退職届」を出すタイミングについては、慎重に考えるべきでしょう。

 

 

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ライター

井上通夫福岡で開業する現役行政書士

「転職でよくある悩み・トラブル!現役行政書士が解決!」シリーズ

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現在福岡市で行政書士事務所を開業(平成20年7月より)。現在、民事法務(契約書、内容証明、離婚協議書等)を中心に相続・遺言業務、企業の顧問等を行っている。大手クレジット会社、大手学習塾の勤務を経て現職。法律の知識や過去の職業経験を活かして、民事関係はもちろん転職・教育金融関係等の相談にも対応している。転職ステーションの中では、行政書士の視点から転職時の注意点などを幅広く解説中。

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