タイトルを見て「退職する時期に得も損もあるのか?」と思った方は多いのではないでしょうか。実は、会社を「月の途中」で退職するのか「月末」で退職するのかで天引きされる社会保険料が大きく変わることがあるのです。
今回の記事では社会保険の仕組みを簡単に解説しながら、なぜこのようなことが起こるのかをお伝えしたいと思います。(※今回の記事内において『社会保険』とは「厚生年金保険」と「健康保険」の2つを指しています。)
社会保険はいつからいつまで加入?
そもそも我々は会社に入社した時点で、自動的に社会保険へ加入することになっています。これは法人化されている企業であれば、原則として社員を社会保険に加入させなければならないと法律で決められているからです。社会保険への加入は強制となっているのですね。
また、この社会保険への加入資格は雇われた「その日」に取得し、退職した日の「翌日」に喪失することとされています。例えば、4月1日に入社し、翌年3月31日に退職した人は「入社日」である4月1日に社会保険の資格を取得し、退職日の「翌日」である翌年4月1日に資格を喪失することになります。
- 「退職日」ではなく、「退職日の翌日」に資格を喪失するという点が今回のキーポイントです。
社会保険に加入していた期間(被保険者期間)で考えると・・・?
先ほど、社会保険は雇われた日に資格を取得し、退職した日の翌日に喪失すると説明しました。ただ、ややこしいことに、その人が社会保険にどの位の期間加入しているか(被保険者期間といいます)を考えるときには「日数」ではなく「月単位」で考えることになります。
正確には、社会保険の資格を取得した「月」からその資格を喪失した月の「前月」までが被保険者期間としてカウントされることになります。先ほどの例で言えば資格を取得した月である「4月」から資格を喪失した月である翌年4月の前月にあたる「翌年3月」までが社会保険の加入期間になるのです。
なお、皆さんが普段給与から天引きされている社会保険料を計算する際にもこの方法を用いて被保険者期間がカウントされることになります。
上記の点が月末退職にどう影響するの?
ここまでのポイントを整理しましょう。
- 社会保険の加入資格は「入社日」から退職日の「翌日」まで残る
- 被保険者期間は「資格取得月」から資格喪失月の「前月」までがカウントされる
勘の良い方はすでにお気づきになっていることと思いますが、ここで「月の末日」に退社すると被保険者期間が1ヶ月分多くカウントされることになりますね。末日以外に退社する人と末日退社の人を比べてみると分かりやすいでしょう。
- (1)4月1日入社→翌年3月30日退職のパターン
社会保険加入日:4月1日(入社日) 社会保険喪失日:翌年3月31日(退職日の翌日)
被保険者期間:4月から2月(喪失日の前月)までの「11ヶ月間」
- (2)4月1日入社→翌年3月31日退職のパターン
社会保険加入日:4月1日(入社日) 社会保険喪失日:翌年4月1日(退職日の翌日)
被保険者期間:4月から3月(喪失日の前月)までの「12ヶ月間」
(1)の人は支払う社会保険料が2月分までのため、給与の締め支払い日によっても異なりますが、最後の給与では社会保険料の天引きが全くない可能性が高いです。(2)の人は3月分まで社会保険料がしっかり発生するため、最終の給与まで社会保険料が天引きされることになるでしょう。
このように、退職日を月の末日とするかそうでないかで社会保険料の天引き額が変わってくるため、「天引き」という側面だけで判断するのであれば、「末日の退職は避けたほうが得」ということになるのですね。
※(1)のケースでは4月から新たな会社に勤務するとしても3月31日が社会保険に加入していない「空白期間」となってしまうため、厳密に言えばこの1日分について「国民年金・国民健康保険」の手続きを市役所等で行う必要があります。
同じ理由で、入社は月初にする方が得!
仕組みが理解できた方はピンと来たかもしれませんが、同様の理由で入社は月初にした方が社会保険上は得になります。こちらも例を使って確認してみましょう。
- (1)5月1日入社
社会保険加入日:5月1日(入社日)
被保険者期間:5月〜(社会保険料は5月分から発生)
- (2)4月24日入社
社会保険加入日:4月24日(入社日)
被保険者期間:4月〜(社会保険料は4月分から発生)
もうお分かりですよね。(2)のケースでは(1)と比べて1週間しか入社日が変わらないのに、4月の社会保険料がまるまる1ヶ月分余計に発生することになります。給与の額によっては1週間分の金額が全て社会保険料で相殺されてしまうかもしれません。
職場によって様々事情があるものですが、社会保険料のことを考えるとなるべく月末近くに入社するのは避け、入社は翌月の月初にしたほうが良さそうです。
今回の記事のまとめ
ここまで入退社と社会保険の関係について解説してきましたが、いかがだったでしょうか?会社に入社するタイミング・退職するタイミングで社会保険料が変わってくるというのは知らなかった人も多いのではないでしょうか。
転職は人生においても一大イベントです。それに比べると、今回解説した社会保険料額の違いはもしかしたら微々たるものになるのかもしれません。
ただ、これを知らずに月末に退職したり入社したりすることで転職前後に余計な出費がかさんでしまうことにもなりかねません。現職や転職先からどうしてもという強い要望がない限り、月末に入社したり、月の末日に退職したりするのは避けたほうがいいでしょう。
松永大輝社労士資格保有/社労士講座現役講師
「知らずに転職できない法律・お金のハナシ」シリーズ
早稲田大学在学中の2011年に学習期間6ヶ月で社労士試験に一発合格。合格後は大手社労士事務所に新卒入社し、労働法や社会保険の専門家として上場企業からベンチャー企業まで10社ほどの顧問先を担当。約3年間の勤務後、IT系のベンチャー企業に人事担当者として転職し、新卒・中途採用を中心に人事全般を経験する。また、本業のかたわら社会人2年目から大手通信教育学校の社労士講座非常勤講師として講義やテキスト執筆・校正などを担当。現在は保有する資格を活かしながらフリーランスの人事として複数の企業から採用などの実務を受注するかたわら、講師、Webライターなど幅広く活動中。転職関連の執筆実績多数。
保有資格:社会保険労務士、AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)、産業カウンセラー