裁判も多い!?転職時の顧客名簿の持ち出しを解説!

ライター:岸本学

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 はじめまして。弁護士の岸本学と言います(自己紹介はこちら)。私自身、弁護士登録前に複数の民間企業・官庁に勤務するなど転職の経験があり、転職サイトを利用して転職に成功したこともあります。転職ステーションでは弁護士としての情報と自身の転職の経験などを踏まえて、「弁護士が教える転職トラブルの回避と解消のカギ」シリーズということで記事を掲載していきます。

 

 初回の今回は「転職時の顧客名簿の持ち出し」についてです。まずは以下の事例をご覧ください。

 

<事例>

 新たな活躍の場を求めて転職活動を始めたA君。履歴書を出したB社の面接を受けることに。

面接官から「あなたがわが社に貢献できることは何ですか?」と尋ねられ、A君は「今勤務している会社で多数の優良顧客を担当しています。その『顧客名簿』をお持ちできます。御社の事業展開に役立てることができるのではないでしょうか」なんて答えちゃった…。

コンプライアンスを重視しているB社。A君は結局不採用になりました…。

 

 

「顧客名簿」の持ち出しは裁判に!

 A君は面接で、B社に現勤務先の「顧客名簿」を提供すると申し出ました。優良顧客に関する情報はどの企業でも喉から手が出るほど欲しいはず。しかし、この「顧客名簿」提供の申し出が、A君の不採用の決め手だったかもしれません。いったいどうしてでしょうか。

 

 実は、前勤務先の「顧客名簿」を持ち出して次の勤務先に提供したり、利用したりすることは、多く発生しています。しかし顧客名簿を持ち出された側の会社にとっては、「顧客名簿」の流出が起こると同業他社に顧客を奪われることにつながり、大きな痛手となりかねません。

 

 そのため、前勤務先の会社が元従業員や次の勤務先の会社に、顧客名簿の利用をしないよう求める「仮処分命令」の申し立てや「損害賠償請求」の訴訟を提起することが、頻繁に発生しています。

 

「不正競争防止法」とは?

 わが国には「不正競争防止法」という法律があります。この法律は、事業者等のいくつかの行為を「不正競争」と定めて禁止して刑罰を設けるとともに、「不正競争」により損害を受けた事業者に不正競争行為の差し止めや損害賠償を請求する権利を認めています。

 

 この「不正競争」の一つとして以下が定められています。

 

  • 「その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」(不正競争防止法2条1項5号)

 顧客名簿は、ここでいう「営業秘密」に該当する可能性があります。つまり、不正に持ち出された「顧客名簿」を受け取って自社の営業に用いれば、「不正競争」として法的責任を問われかねない、ということになります。

 

「営業秘密」はなかなか認定されない?

 不正競争防止法では、「営業秘密」の定義を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定めています(不正競争防止法2条6項)。

 

 しかし現実の裁判では「顧客名簿」といえども裁判所からはなかなか「営業秘密」として認めてもらえません。一番問題になるのは上記定義に含まれている「秘密として管理されている」との部分です(『秘密管理性』と言います)。この秘密管理性の要件を満たすためには、施錠されている場所に保管されていたり、電子データにもパスワードが設定されて限られた範囲の従業員しか見ることができなかったりなど、しっかりと管理されていることが必要です。「顧客名簿」が印刷されて従業員ならだれでも見られる場所に放置されていたり、共有サーバー上に保存されていてパスワードなしで誰でも見られる状態になっていたりしては「秘密管理性」の要件が満たされません。

 

 日本では、まだこの管理が甘い事業者が多く、裁判で「顧客名簿」を持ち出された側が、秘密管理性がなく「営業秘密」と言えないとされ敗訴するケースもよくあります。しかし「うちの会社は『顧客名簿』の管理が甘いから『営業秘密』にはならないから情報を持ち出しても大丈夫だ」というわけにはいきません。以前の勤務先が、訴えが認められないかもしれないことを覚悟で訴訟に及んだり、転職先の会社あてに警告の書面を出したりすることは大いにあり得るので、せっかく転職に成功したのもつかの間、まだ新しい職場で信頼関係を築けないうちに、トラブルに巻き込まれることにもなりかねません。

 

<※実際に裁判になった例は?>

 大阪地方裁判所の平成25年4月11日判決(判例時報2210号94頁に収録)の事件は、中古車を国内で購入し海外の顧客に販売しているX社が、元従業員Yと元従業員が設立したY‘社らに対し、顧客情報を不正に持ち出して利用したとして、顧客情報に含まれる顧客への営業活動の差止請求や顧客情報が記録された電子媒体・紙媒体の廃棄や損害賠償を求めたケースです。この事件で裁判所は、持ち出された「顧客情報」が「営業秘密」にあたると認めるなどX社の主張の大部分を認め、営業活動の差止、媒体の廃棄および損害賠償のすべてが認められました。

 

 

転職で注意すべきことは?

 上記の中古車会社の裁判例のようにら顧客情報の持ち出しは十分訴訟対象になる事案です。訴訟にまではならずとも、冒頭で事例として挙げたA君は現勤務先から顧客名簿を持ち出しB社の業務で使用すると発言し、B社は訴訟などトラブルに巻き込まれることを懸念したことが考えられますので、転職において顧客情報の持ち出しは厳禁とも言える行動です。(B社はコンプライアンスを重視していることから「現勤務先の顧客名簿を提供する」と述べたA君は「モラルがない」と判断されたのかもしれません)。

 

 最近は、退職時に「顧客情報」をはじめとする「営業秘密」を持ち出したり転職先など第三者に提供したりしないことを内容とする「秘密保持誓約書」の提出を求める企業が増えています。この「秘密保持誓約書」に違反する行為があれば、裁判などトラブルを招く恐れが強いです。転職時は厳重に注意しましょう。

 

ライター

岸本学転職トラブル解決・回避のエキスパート弁護士

「弁護士が教える転職トラブルの回避と解消のカギ」シリーズ

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大学卒業後、信用金庫→リース・総合ファイナンス会社→金融庁→弁護士と転職を成功させてきた経験を持つ。弁護士としては、企業法務を専門とする法律事務所に勤務し、企業側の視点から労働問題などを扱う。現在は独立し「みせばや総合法律事務所」を運営中。転職ステーションでは豊富な転職経験と企業・使用者側の視点をあわせ持つ転職にまつわる問題のエキスパート弁護士としてトラブル回避と解消に適切なアドバイスを掲載中。

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